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かくも不思議な脳の謎を知る。 [ノンフィクション]

 幻覚痛とよばれる不思議な症状がある。切断したはずの手足の一部が痛んで、いつまでも患者を苦しめるという症状である。本書「脳のなかの幽霊」(角川書店)の著者であるV.S. ラマチャンドラン博士は、こうした幻肢の特徴と治療についてきわめて独創的な業績を上げた当代きっての神経科学者である。現実にはない手足に痛みを感じるなどという非科学的な症状について、これまでの学者は「不思議なことがある」といった事例報告で終わらせてしまうのが通例であった。本書によって初めて一般の人にもわかりやすく、幻肢がおきる科学的な説明を加えてくれた。詳しくは一読願いしかないが、脳の不思議な神秘に触れて読後は少し混乱してしまうかもしれない。

 しかしこの世には、不思議な症状がゴマンとあるものである。自分の体の一部を他人の者だと主張する患者。両親を本人と認めず、偽物だと真面目な顔で主張する青年。半身麻痺になったことを自分では認識できず、動かぬ手の動作をいつまでも主張続ける疾病否認の女性。自身の左半身だけが認識できなくなってしまったという半側無視の母親。なぜこんな摩訶不思議な症状が起こってしまうのだろうか。V.S. ラマチャンドラン博士は、ひとつひとつの事例についてこれまでの常識を覆すアプローチをこころみ、患者を狂気や怪奇の世界から連れ戻してきた。患者たちの訴えは根拠のない与太話などでは決してなく、無意識が構築した緊急の防衛手段であり、すべて脳の構造による説明がつけられるものばかりであるという。

 具体的な事例として自分の身体イメージがいかにはかなく崩れ落ちてしまうものかという実験が示されていて、これがまたすこぶる面白い。著者のいうとおりの手品箱のようなミラーボックスを作り、そこに自分の手を入れてボックスの中の鏡をのぞき込むだけで、私たちも簡単に自分の身体イメージを崩壊させ、わけがわからない混乱状況を作り出すことができるのである。自分の身体とは、そもそも一体何なのか? 思わず、こんなことを真剣に考えてしまう。その意味で、本書は最先端の神経医学の解説書であると同時に、私たちの存在そのものを問いかける哲学書にもなっていると言える。実に骨太の読み応えある書であります。


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