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世界で初めて指紋を発見した男たち [ノンフィクション]

 1905年、イギリス。世界中の警察関係者が注目する歴史的裁判が始まっていた。その名をストラットン裁判。塗装店を経営する老夫婦を惨殺したとして起訴されたストラットン兄弟の罪を問う裁判である。検察が挙げる証拠は、数人の目撃証言をのぞくと金庫に残された兄弟の指紋だけ。この指紋によって被告を死刑に処すべきかどうかという、世界初の「指紋の証拠能力」を問われた裁判であったのだ……。

 コリン・ビーヴァン「指紋を発見した男」(主婦の友社)は、このように指紋にまつわる「はじめて物語」をきわめて推理小説風にまとめたノンフィクションであります。現在では、犯罪者の特定に圧倒的な効力を発揮する証拠である指紋ですが、100年前にはなにやら怪しげな紋様にしかすぎず、こんなモノによって被告の生死を決定するなど言語道断であると多くの警察関係者に否定されてきました。

 かといって、彼らが行っていたのはあくまで記憶に頼るヒトの識別法であり、精度はすこぶる低いものにすぎない。当然、再犯者の特定などほとんどできないために、困窮のためやむを得ずおこなってしまったコソ泥も、名前を変えて銀行強盗を何度もやらかす大強盗も、罪の重さは同じにすることしかできません。神の前で煮えたぎる湯に腕を浸し、その火傷の具合によって犯人かどうかを決定するといった中世ヨーロッパの神明裁判とあまり変わらないような前近代的な法廷が長い間続いていたわけなのです。

 犯罪と闘う道具としての指紋の普及が急がれるのは、こんな当時の裁判実態があったからなのでした。しかし、指に刻まれた紋様によって個人を特定するという理論を、陪審員たちにいかに理解させることができるのか。人物特定に関する技術としては他に身体測定法(人体のあらゆる部位の詳細サイズを測ることによって個人を識別する科学的な手法)との技術論争や、指紋の発見者としての地位をめぐる研究者同士の対立も絡み合い、裁判は実にスリリングに進行していきます。

 DNA鑑定という新しい武器が備わった現在でも圧倒的に普及している指紋というテクノロジーの重要性が、本書を通じて改めて浮き彫りになりました。加えて、指紋をめぐる研究者たちの喜悲劇。近代犯罪科学捜査の基礎としてきわめて重要な役割を果たした「指紋」は、その影響の大きさ故に研究者たちの間で発見者としての栄誉をめぐって壮絶なバトルを繰り広げてきたのでありました。本書は、政治力のなさから不遇に扱われてしまった真の発見者ヘンリー・フォールズに捧げる鎮静歌ともいえるでしょう。


指紋を発見した男—ヘンリー・フォールズと犯罪科学捜査の夜明け


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Youkimu

http://www.japan-hotels.hippy.com/
by Youkimu (2006-01-13 02:09) 

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