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衝動買いが大好きな貴方へ [エッセイ]

 先日「パリ時間旅行」を読んだ時も感じたことですが、鹿島茂センセイの文章というのは本当に上手いと思うのです。(ちなみに普通、私がセンセイと記すのはどちらかというと皮肉を込める場合が多いのですが、鹿島氏に対しては100%敬服の意味を込めた敬称ですよ)「パリ時間旅行」の時は、その文章力、構成力、そして持ち前の博学に感服したものでしたが、本日ご紹介いたします「衝動買い日記」(中公文庫)になりますと、絶妙なユーモア感覚に脱帽ということになります。この上品なユーモアは、全盛時の北杜夫のどくとるマンボウシリーズに通じるものがあります。

 本書の著者である鹿島茂氏は、共立女子大学の現役のフランス文学教授。その道では知られた有名な先生でありますが、ちょいと腹の出た、色黒のいかつい、サングラスをかけると道行く人が視線を避けるというタイプの、およそ仏文学教授らしくないアブナイ風貌の人物でもあります。そんなセンセイ、実はお買い物が大好きで、しょっちゅう衝動的な買い物をしては家族に迷惑をかけるという事件を巻き起こしているらしい。本書は、そんな鹿島氏の買い物の数々、典型的な衝動買いの顛末記をユーモアたっぷりに、そしてもちろん購入したモノにまつわる様々な雑学を添えて書き綴っている、著者にしては異色のエッセイなのです。

 腹筋マシーン、ふくらはぎ暖房機、挿絵本、高級財布、ネコの家、男性用香水、サングラス、体脂肪計、ごろ寝スコープ、ヴィンテージワイン、毛沢東・スターリン握手像・・・・。ムッシュー・カシマのお買い物は、私たち庶民となんら変わらぬ通信販売の発作的衝動買いから、氏ならではのこだわりに満ちあふれたマニアックなコレクションまで、実にさまざま。しかしそれぞれの買い物の奥に潜む男の衝動買い心理(?)を、絶妙に描き込んでおり、男性諸君ならずとも思わず膝を打ちたくなるというモノでしょう。それでいて、そこいらの流行エッセイストとやらが書き殴る駄文とは、その文章の質の差は明らか。思わずぐいぐい読み進んでしまうのは、単に面白おかしく綴られた文章タッチにあるわけではなくて、一編一編がきちんとした構成力を持っているからでありましょう。楽しくて、ためになる。グリコのキャラメルではないけれど、まさに、そんなコトバがピッタリの軽快エッセイであります。


衝動買い日記


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19世紀パリへのタイムトラベルと知的興奮 [エッセイ]

 ちょっと最近軟弱な本が続いてしまったので、自分に「喝」を入れる意味でも、少しお堅い本を一冊。ということで、本日のお題は、鹿島茂「パリ時間旅行」(中公文庫)です。岩波ブックセンターをご贔屓にしてくださる読書家の皆様なら知らぬ人はないほどの先生でありましょうが、恥ずかしながら私は、読ませていただくのは初の経験。しかし、冒頭からぐいぐいと引き込む話術と、文章のうまさ、さらに次々と繰り出される19世紀に関するインテリジェンス・・・・。最近は「エッセイ」という分野は、ともすれば書き殴りの駄文という概念が横行しているだけに、久々に読み応えのある知的なエッセイに出会えた感動でいっぱいになりました。たとえば、「陰翳礼賛あるいは蛍光灯断罪」という一文の出だしを読んでみましょう。

「晩秋のパリは、何日も陰鬱な雨が降りつづくことが多い。おまけにどんどん日が短くなって、朝は九時過ぎまで太陽が昇らず、夕方は四時頃から暗くなってくるので、ボードレールやヴェルレーヌの詩に親しんだ者ならずとも、憂愁の思いにかられて、ついついアパルトマンの中にこもりがちになる。こんなときには、いっそ思い切って夕暮れの中に出てみるとよい。日が落ちるにしたがって、次々に商店に灯がともり、街は日中の陰鬱な雰囲気とはうってかわったような華やいだ景観を呈するからだ・・・・・。

 一般に、フランスの商店は昼の十時から七時頃まで営業している。ところで、夏場は冬場と違って夜の九時頃まで暗くならず、真昼のような青空がのぞいているので、商店に電灯をともるところを見ることはほとんど不可能に近い。これに対し、晩秋には、四時頃から七時まで、照明の華麗なショーを無料で楽しむことができる。それは、シャン=ゼリゼやオペラ座通りといった目抜き通りにかぎったことではない。すぐ近くのなんでもない商店街が、いったん電灯がともったとたん、シェレのポスターのような夢幻劇じみた白熱灯の黄色い光によって、胸をときめかせるような空間に変貌してしまうのである。日中はあまり美味そうにも見えないおかずを並べていた総菜屋はたちまち高級フランス料理のグルメの店に変貌し、冴えないデザインのコートを陳列していた洋装店は最新モードのブティックに変わってしまう。それは、まさに魔女が杖を一振りして、枯木の山を妖精の国に変えてしまうのにも似た魔術的な瞬間である・・・・・」

 それでは、どうしてこのような魔術が現実に起こるのか。それは一にも二にも、白熱灯を中心とするパリの照明のあり方に原因があり、日本における効率優先の蛍光灯照明とフランスの照明の違い、照明工学的効果、さらにはフランスの照明の歴史にまで話は及び、19世紀の文学や絵画に表現されている陰翳効果まで解説が進んでいく。一度話し出したらもう、止まらない。鹿島センセイと共に体験する19世紀パリへの時間旅行ツアーの始まりです。本書では、このような感じで「パサージュ」「街灯」「光」「音」「香水」「清潔」「旅行」「スポーツ」といったテーマに対して切り込みを入れ、19世紀の空気を読者に伝えてくれるのであります。一流のフランス文学者である著者の知性は当然のこととして、文章の巧みさに私は本当に舌を巻く思いでありました。本書を一冊まるごと書き写せば、少しは文章力が上がるかナーなどと、呆然とする思いでなんども読み返している私であります。


パリ時間旅行


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痛快無比な飛行機の旅にようこそ!! [エッセイ]

 「機内暴力」という言葉があるように、飛行機内においても乗務員や乗客に迷惑をかける輩というのはけっこう存在するらしい。それも、ヤクザのお兄さんとか不良高校生とかではなくて、まったく普通のサラリーマンが突然危ないヒトに変身してしまうというのだから、始末に負えないのです。どうして飛行機に乗ると彼らは、そんな変人に変身してしまうのか? そもそも、どんな迷惑行動をおこしてくれるのか? エリッオット・ヘスター「機上の奇人たち」(文春文庫)を読むと、そんな彼らの奇行の数々が「ホントかよ?」と思えるくらいに盛りだくさんに語られ、人間の愚かな一面に改めて気付かされることになります。

 本書の著者であるエリッオット・ヘスターは、大手航空会社に勤める現役のフライトアテンダント。フライトアテンダントとはいっても、制服姿が男心をくすぐる美人のスッチー様などとはまったく違い、長身でスキンヘッドという、見るからにいかつい姿の黒人男性とのこと。彼が乗り込む飛行機内では、なぜだか毎度のように不思議な行為を楽しむお客様(場合によっては乗務員も…)が乗り込まれ、高度三万フィートの上空で事件を起こしてくれるのだという。一体、どんな事件が起こるのかって?

 異様な体臭(まるでゴミ溜の中に住んでいたような)を放ち、機内を一瞬のうちに毒マスクなしでは座っていられないほどの恐怖空間に陥れてしまう夫婦。豚やヘビといった不思議な動物を持ち込む男性。(盲導犬と同様の役割を果たすセラピーペットとして機内同乗が許可された豚ちゃんが、突然機内で暴れ出した事件もあったとか!!)人前で公然といちゃつき、挙げ句の果てには座席でナニの行為にまで至ってしまうというバカカップル。酒を飲み過ぎて、そこらかまわずゲロを吐きまくるお姉さん。はてはアルコールの勢いでやたらと好戦的になり、シートベルト着用するようにと注意されたこを不服としてスチュワーデスを殴り飛ばす男ども。噂には聞いたことがあるけれど、実に豊富な事例で「機内暴力」についてのあれこれをユーモアたっぷりに説明していただき、読者を爆笑の渦に巻き込むこと間違いありません。

 飛行機は満席、上空には乱気流、席はエコノミーのど真ん中。右隣の席には、膝の上で泣き叫ぶ赤ん坊をあやす母親が、右側にはブクブクにふくれあがった超肥満のビジネスマン……誰でも経験したことのある、こんなよくある飛行機内の情景で、本書で語られる事件は起こるのです。著者自身が自虐的に語っているように、まさにそれは地獄の旅。「ようこそ、ご搭乗くださいました。痛快無比な、楽しい(あくまで他人事である限り)旅の数々をご紹介いたします」とは、著者の冒頭のご挨拶。 お願いだから、今度自分が乗る飛行機で、こんな事件はおきないようにねと、読後は、そう願わずにはいられません。軽いタッチで書かれた爆笑エッセイではあるけれど、ホントは笑い事ではすまされない内容を持った事件の数々なのであります。


機上の奇人たち—フライトアテンダント爆笑告白記


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現役・救命救急ドクターによる名エッセイ [エッセイ]

 救命救急が、テレビ的にはちょっとしたブームであります。火付け役は、なんといってもNHKで放映されている海外ドラマ「ER」。その日本バージョン「救命救急24時」も、本家に劣らぬ人気を博したようでありました。現在放映中の東京大地震災害を舞台にした第三シリーズも好評ですね。またドラマ以外でも、救命救急をテーマとした特番番組は数多く作られています。突発的な事故や病気の患者が24時間フルタイムで担ぎ込まれる救命救急センターの現場の喧噪。矢継ぎ早に治療を実施するドクターや看護士たち。傷ついた患者を単純に救いたいと不眠不休で奮闘する彼らの姿は、見る者を釘付けにし、感動的ですらあります。医療事故が相次いで起きる現在の病院において、医療の原点ともいえる救命センターの活動が注目を浴びるのは当然のことなのかもしれません。

 ところでこの救命センターには、身元不明の事故による重症患者が担ぎ込まれているシーンがテレビでもよくお馴染みです。あの患者の治療費は、誰が払うことになるのかご存じでしょうか? もちろん、身元がわかったら本人かその家族ですね。でも、その金額は一体いくらくらいかかるのか? 三百万円? そりゃ最先端の器具を使った大手術ともなれば、仕方ない。それでは、もし身元がわかる前に(一刻の猶予も許されない緊急の事態で)手術をしなくてはいけない場合に、その許可は誰が与えているのでしょうか? 本来なら、家族による同意書が必ず必要な大手術ですよね。死亡確率も非常に高いわけですし。実際、手術してみたが、その甲斐なく途中で亡くなってしまった・・・・。こうなると、後が大変です。治療費は誰が払ってくれるのか? もし高校生が無免許で事故を起こしたような場合、一切保険の対象にもならないし。さあ、術後の遺族と病院の戦いの始まりです・・・・。

 浜辺祐一「救命センターからの手紙」(集英社文庫)は、全編こんな雰囲気で描かれた現役・救命救急の医者によるユニークなエッセイです。日常的に人の命の危険性と関わる救命センターですから、もちろん内容は真摯なテーマばかりでありますが、浜辺氏の語り口はつねに上品なユーモアに満ちており、肩肘張らずに読むことができる。先に記したエピソードもその一つで、緊急救命センターという社会的医療部署が民間病院の中に存在する矛盾点を鋭く突いているとも言えます。収容されてくる患者の死亡率は三割を超えるという過酷な条件の下、医者たちは患者をどのように救うかだけでなく、いつどんな形で治療を終わらせるかという人道的なテーマとも向き合っているわけです。人生の裏も表も、医者として病院としてのきれい事も本音もここまできちんと語り尽くしたエッセイは始めて読みました。渡辺淳一の初期のエッセイを彷彿とさせるような、それでいて数段上の読後感を得られる書物であります。



救命センターからの手紙—ドクター・ファイルから


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懐かしの「日ペンの美子ちゃん」に逢える本 [エッセイ]

 書店で出会っても、「どうしようかなー」と思い、買うべきか、買わざるべきか悩んでしまう本というのがあります。貧乏だからというのもありますが(涙)、さすがに最近は本の置き場に困って整理しなくてはいけない状況に追い込まれつつあるので、できるかぎり無駄な本というのは買いたくないのが本音なのです。昔なら資料としての価値があれば、何でもかんでもとにかく買ってしまったものでありますけれど。

 そんなときに、出会ってしまったこの奇妙な本。岡崎いずみ「あの素晴らしい日ペンの美子ちゃんをもう一度」(第三文明社)なのでありますがね。「まったく、このコラムは真面目な書を紹介しているのか、軽いノリな本ばかりを紹介しているのか判断が付きかねる……」なんていうご意見を書かれてしまうかもしれないけれど。でも、出会ってしまったのだから、仕方ない。美子ちゃん本と初めて会ったその日から一週間、悩みに悩んだわたくしは、昨日思い切って本書を購入してしまったのでありました。この切ない恋に拍手あれ・・・・・。パチパチパチ(まばらな拍手だね)。

 閑話休題。本書は、日本の女子なら誰でも知ってる(はずの)あの謎の広告マンガ「日ペンの美子ちゃん」を徹底追及した研究本であります。こう聞くと、サザエさんを取り上げた「磯の家の謎」とかいうベストセラー本が思い浮かびますね。左様、本書の著者・岡崎いずみ氏は、あの本でひとやま当てた構成作家なのであります。さすがに目のつけどころがスルドイというか、その他大勢の一般ピープルの深層心理に潜むマニアック魂を心得ていると言いますか、とにかく「日ペンの美子ちゃん」で一冊の本をまとめてしまうとは恐れ入りました。

 一応、知らない人のために説明しておきますと、「日ペンの美子ちゃん」とは日本ペン習字研究会なる通信講座の入会案内広告のための宣伝マンガです。いまから遡ること30年前。「りぼん」「明星」とかいった少女雑誌の裏表紙に、必ずと言っていいほど掲載されていたヘンテコなマンガを覚えている人は多いでしょう。あれが、「日ペンの美子ちゃん」でありますよ。作品自体は単なる宣伝マンガに過ぎないために、ほとんど意味のないものなのですが、あまりに長い間雑誌に連載されていたために、女の子たちにとっては有名作家の作品と同じレベルで記憶に残ることになりました。あのころ少女雑誌を愛読していた方なら、涙なしでは本書を眺められませんよ。美子ちゃんのキャラクターは現在までに4回も変わっているそうで、世代によって自分が出会った美子ちゃん捜しをする楽しみもできそうです。

 しかし女の子の想い出に、「日ペンの美子ちゃん」があるなら、男の子の青春の想い出には「ブルーワーカー」のマンガがありますね。「昔、私は貧弱な男とさげすまれていた。そこで、ブルーワーカーを買って、トレーニングに励んだ。いまではたくさんの女性たちが私の元にやってくる」というあの四コママンガ。次は、本当にこの研究本が発売されるかもしれないね(笑)。


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